PLASTICS FOR INJECTION MOLDING
射出成形は、熱で溶かしたプラスチックを金型に射出し、短時間で高精度な製品を量産できる工法です。
本ページでは、プラスチック射出成形で使用される代表的な樹脂材料について、種類と特徴をまとめました。
射出成形で使用するのは、熱を加えると溶けて、冷やすと固まる「熱可塑性プラスチック」です。
材料によって、流動性、収縮率、反り、耐熱性などが異なり、成形条件や金型設計にも大きく影響します。
プラスチック材料は、性能とコストのバランスから以下の3種類に分類されます。
・汎用プラスチック(大量生産に適した汎用樹脂)
・エンジニアリングプラスチック(高強度・高精度の機構部品向け)
・スーパーエンプラ(高温・薬品環境・高信頼性用途向け)
プラスチック射出成形では、材料ごとの流動性や収縮率を踏まえた金型設計・ゲート位置・冷却設計が、反りや寸法不良を防ぐうえで重要になります。
汎用プラスチックは、コストと量産性に優れた樹脂群で、家庭用品から自動車内装部品まで幅広く使用されています。
・PP(ポリプロピレン)
軽量で剛性・耐薬品性に優れ、柔軟性もあるためヒンジなどの稼働部にも使用されます。
サイクルが早く成形性が良い反面、反りを抑えるためには金型冷却設計が重要です。
用途: 食品容器、自動車内装、キャップ、雑貨など。
プラスチック射出成形では、PPの大きな結晶収縮と反りを抑えるため、肉厚バランスの最適化と金型冷却の均一化が特に重要になります。
・PE(ポリエチレン)
柔軟で衝撃性・耐薬品性に優れています。
成形収縮が大きく、寸法精度を要する用途には不向きです。
用途: タンク、ボトル、配管、梱包材。
プラスチック射出成形でPEを用いる場合は、収縮率が大きく寸法変動が生じやすいため、公差に余裕を持たせた設計と、金型合わせ面の管理がポイントになります。
・PS(ポリスチレン)
安価で成形が容易、透明グレードも存在。
脆性が高く衝撃に弱いため、構造部品よりも外観・包装中心に使用されます。
用途: 容器、トレー、ディスプレイ部品、文具など。
プラスチック射出成形では、PSは流動性が高い一方で割れやすいため、応力集中を避けるリブ設計と保圧条件の最適化が重要になります
・ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
外観性、剛性、耐衝撃性のバランスが優れ、射出成形に適した代表的樹脂。
メッキ・塗装との相性も良く、外装部品に多用されます。
用途: 家電筐体、自動車内装、OA機器、ホビー部品。
プラスチック射出成形でABSを使用する際は、ゲート近傍の光沢ムラやウェルドライン低減のため、ゲート形状・位置と成形温度の最適化が求められます。
・AES(アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン)
ABSの耐候性改良版。屋外環境での黄変や劣化が少なく、長期使用に強い。
用途: 自動車外装、住宅設備、屋外ボックス、建材。
エンプラは、汎用樹脂よりも高い耐熱性・強度・寸法安定性を持ち、機械部品や電気電子部品などに広く使用されます。
エンジニアリングプラスチックの射出成形では、剛性・耐熱性の高さゆえに反力も大きくなるため、型締力の選定や型剛性、
ガス抜き構造の設計が品質安定の鍵になります。
・PA(ナイロン6)
強度・耐摩耗性・耐薬品性に優れ、設計自由度の高い樹脂です。
流動性に優れる反面、吸水による寸法変化が大きいため、湿度条件を考慮した設計が必要です。
用途: ギア、ローラー、摺動部品、産業機械部品。
・PA66(ナイロン66)
PA6より高い融点と剛性・耐熱性を持ちます。
ガラス繊維強化グレードでは金属代替も可能です。
用途: 自動車エンジン周辺部品、電装コネクタ、ギア、ベアリングブロックなど。
・MXD6(ポリアミドMXD6/レニー)
PA6・PA66以上の剛性と耐熱性を持つ高性能ナイロン。
低吸水で寸法安定性に優れ、精密部品や金属代替用途に適します。
用途: 自動車構造部品、計測カバー、精密機器部品。
・mPPE(変性ポリフェニレンエーテル)
軽量・電気特性・難燃性に優れ、吸水が少なく反りが出にくい樹脂です。
用途: 電気電子機器筐体、通信機器、OA機器、軽量外装部品。
・PC(ポリカーボネート)
透明性と耐衝撃性が高く、外装・光学・安全部品に使用されます。
応力割れ防止には冷却とゲート設計の最適化が必要です。
用途: 照明カバー、光学部品、自動車ランプ、保護カバー。
プラスチック射出成形では、PCは透明性と耐衝撃性を活かしつつ、応力割れを防ぐために、肉盗み形状やボスの根元Rなど応力集中を避ける設計が求められます。
・PBT(ポリブチレンテレフタレート)
結晶性・耐熱性・電気特性が優れ、サイクル短縮にも向きます。
ウェルドと反り対策が成形品質の重要ポイントです。
用途: コネクタ、モーターパーツ、電子部品ハウジング。
・POM(ポリアセタール)
摺動性・耐摩耗性・寸法精度に優れ、繰返し使用される精密可動部に最適。
用途: ギア、ヒンジ、ファスナー、カム機構部品など。
プラスチック射出成形でPOMを用いる場合は、ガス焼け・ボイドを防ぐために、ガス抜きと保圧時間の最適化、エッジ部のR付けなどの設計配慮が有効です。
スーパーエンプラは、200℃以上の高温環境や薬品、電気、精密用途に使用される最高性能樹脂群です。
スーパーエンプラのプラスチック射出成形では、高温成形と高粘度流動に対応したゲート・ランナー設計や、
成形収縮・反りを見込んだ金型修正前提の設計検討が不可欠です。
・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)
耐熱250℃級・耐薬品・耐摩耗性トップクラスの高機能樹脂。
用途: 半導体製造装置、自動車エンジン部品、医療・航空部品。
PEEKのプラスチック射出成形では、高温・高粘度のため充填バランスをとるゲート配置と、反り・残留応力を抑えるための保圧・冷却条件の作り込みが重要になります。
・PPS(ポリフェニレンサルファイド)
高温・薬品環境で形状変化が少なく、難燃・電気特性にも優れます。
用途: 電装コネクタ、コイルボビン、化工機部品、バルブ部品。
PPSのプラスチック射出成形では、ガラス繊維配向による寸法異方性を考慮し、流動方向と機械特性を踏まえた形状・ゲート位置の設計が求められます。
・PSU(ポリスルホン)
非晶性透明樹脂で、160〜175℃クラスの耐熱性と高い耐加水分解性を持ちます。
用途: 医療機器、食品装置、配管継手、電気絶縁部品。
・PEI(ポリエーテルイミド/ウルテム™)
ガラス転移温度 約215〜220℃。耐熱水・耐薬品・難燃性・寸法安定性を併せ持つ非晶性スーパーエンプラ。
滅菌や高温多湿条件下でも物性を維持し、金属代替や高信頼部品に最適です。
用途: 航空機内装、自動車電装部品、医療機器、食品機器、電子筐体、メッキ外装。
・LCP(液晶ポリマー)
超薄肉・精密成形に最適で、高耐熱・高剛性・絶縁性・低膨張を兼ね備えます。
用途: 高周波コネクタ、マイクロコネクタ、通信モジュール、光学部品。
LCPのプラスチック射出成形では、極端な流動性と高い配向性により、寸法精度と反りに影響が出やすいため、薄肉・長尺流動部のレイアウトとゲート位置が設計上のポイントになります。
| 用途分類 | 推奨樹脂例 | 特徴・選定のポイント |
| 一般筐体・カバー部品 | PP / ABS / AES | 価格重視、外観・成形性良 |
| 高強度・耐熱部品 | PA66 / MXD6 / PC / PBT | 高剛性・高寸法精度 |
| 軽量・寸法安定部品 | mPPE / PPS | 吸水が少なく成形安定 |
| 高温・薬品環境部品 | PEEK / PPS / LCP / PEI | 耐熱200℃以上、耐薬品性重視 |
| 精密電子・通信部品 | LCP / PBT / mPPE | 寸法安定・絶縁・高信頼 |
府中プラでは、汎用樹脂からエンジニアリングプラスチック、スーパーエンプラまで、用途・環境・金型条件に合わせた材料選定と成形最適化を行っています。